世の中で言われている定説を疑ってみるときに、数字のデータを調べてみることは重要だ。
受験勉強が盛んだった頃のほうが少年の自殺率が低かった、少年犯罪が少なかった、というデータを見つければ、少なくとも「受験勉強が心に悪い」という決めつけに対する反証にはなる。
自殺率や少年犯罪については、受験勉強の他にも複合要因があるだろうから、一概には何とも言えないが、反論をするときには数字の利用は非常に有効だ。
しかし、ときには相手から数字を見せられたその数字に惑わされないで、を疑ってみることも重要である。
たとえば、ここ数年「医療ミスが増えた」と言われ、医療過誤訴訟などの件数デよく発表される。
しかし、医療ミスが増えたのか、それとも、昔から医療ミスはあったのだが、発覚する件数が増えたのかは断定できない。
医者の世界では、昔から医療ミスはたくさんあったというのが一般的な認識だと思う。
最近医療ミスが増えたように見えるのは、患者側の姿勢が厳しくなって、発覚する医療ミスが多くなったというだけだろう。
したがって、「医療ミスが増えたのは、医者の技量が落ちたからだ」などと短絡的に結びつけるのは必ずしも正しいとはいえない。
児童虐待に関しても同じような状況ではないだろうか。
それが発覚した件数が増えたということのほうが事実に近いのではないかと推測している。
もちろん、それでも虐待そのものが増えていることは十分考えられるが、急速な増加については疑えと言っているのだ。
数字が出てきたからと言って、それを鵜呑みにするのではなく、数字についても疑ってみることは必要である受験生のときに、数学の問題で、最大最小の問題をよくやらされたのではないだろうか。
最大最小の問題では、条件が出されていて、その条件に従って問題を解く。
ところが、社会人になったとたんに、その方法論を忘れて、条件が違うのに条件を考慮しないで同じやり方で問題を解こうとする人が多い。
ビジネス上の問題についても、社会の問題についても、それぞれ条件を考慮しながら、場合分けをして問題解決策を見出していかなければいけない。
たとえば、貯蓄性向が強い国民性の国では、減税よりも公共投資のほうが経済効果が大きい。
減税しても庶民はお金を使ってくれないから効果は低いのだ。
ところが、貯蓄性向が低い園、つまり、懐にお金が入ると、入っただけ使ってしまうような国民が多い国では、減税による景気浮揚効果が大きい。
お金持ちの人もお金を使ってくれるから、景気が悪いときには高所得者の減税をしてやると、効果が現れやすい。
このように、国民性という条件が違うと、効果的な経済政策も異なってくる。
また、かつてのようにブルーカラーが多く、ブルーカラーの失業が多かった時代には、公共工事を増やしてブルーカラーの雇用対策をすることが景気浮揚につながりやすかった。
しかし、現在のようにホワイトカラーが失業する時代には、公共工事を増やしても、ホワイトカラーの失業者の受け皿にはならず、景気浮揚効果も限られている。
このように、国民性や不況のタイプなどが違っているのだから、安易に減税がいいとか公共工事がいいとか、判断することはできない。
これらの前提条件以外にも、さまざまな別の前提条件が考えられる。
そうした条件に応じて対策を考えることが必要である。
企業で働く人の動機づけに関しても、場合分けの考え方が必要だ。
現在は、アメリカ企業を見習って、成功者に対する報酬を増やせば人は働くようになるという考え方が強くなっている。
しかし、一般的な動機には外発的動機と内発的動機の二種類があるとされている。
外発的動機というのは、お金などの対価を増やすといっ生まれてくる動機あるいは、出来が悪い人をクピにするという罰によって生じる動機である。
つまり外からのアメとムチのことだ。
内発的動機というのは、その仕事そのものが好きだから一生やるという動機だ。
一般人を高額報酬などの外発的なもので動かそうとしても、「オレは金でやってはない」と、逆にやる気を失わせてしまう場合がある。
しかし、場合分けをしただけでは本当の効果はない。
場合分けごとにシミュレーションを精織に行う能力も必要である。
シミュレーションの答えを出すことによって、どの場合にどの解決策が一番合いそうかを判断できる。
チェスの名手であれ、将棋の名手であれ、「相手がこうしてきた場合」、「相手が別の手できた場合」など場合分けをして、それに応じて自分の手を何とおりも考えてシミュレーションをして、最善の打ち手を決めていく。
シミュレーション能力が高い人は、相手側が「想像もつかないような手だろう」と思って「その策はシミュレーション済み」として、相手を上回る有効な手を打つことができる。
相手の手も自分の手もチェスや将棋に限らず、ビジネス戦略でも当てはまることだし、戦争などにも当てはまることだ。
今回のイラク戦争においては、「アメリカがなぜあれほど愚かな戦争を仕掛けたのか」と感じている読者の方も多いと思うが、一応様々なシミュレーション外であったのかもしれない。
あまりにもあっさりと勝ちすぎたこともシミュレーション外だった可能性がある。
アメリカは、簡単に勝ったことで喜んでしまったが、簡単に勝ったほうがあとあと大変だという落とし穴にはまった可能性もある。
いずれにせよ、勝った後のシミュレーションが十分にできていなかったのだろう。
問題解決能力だけではダメだという考え方もある。
T大学名誉教授のH先生は『S』(K刊)という著書の中で、問題解決型の人間はこれからはもうダメで、問題発見型の人間にならないといけない、と述べている。
つまり、与えられた問題を解くだけでは、新しいアイデア、新しい発見は出てこないということである。
商品開発のときにも、従来はアンケートがよく取られていた。
たとえば、冷蔵庫の開発をしようとする場合に、「お宅の冷蔵庫にはピールが何本入っていますか」、「卵はどういうふうに入っていますか」、「冷蔵庫の容量は何リットルくらい欲しいですか」、「冷蔵庫についてどういう点が不満ですか」など、考えつく範囲でたくさん質問を作っていく。
それらの質問することで問題を解決できる。
ただし、何度も述べたように、そのとき置かれた状況によっていろいろなバイアスがかかっているから、メタ認知によって「自分の案は立場に縛られていないか」、「この案は自分の感情に左右されていないか」など客観的に見つめて、修正を加えていくことも必要になる。
こうして豊かな知識を持ち幅広い推論を行うとともに、メタ認知を働かせて、問題解決能力の精度を高めていくことが、認知心理学で言う「頭のよさ」である。
写真を観察すると、瓶が横向きに置かれているとか、物を入れるのに邪魔な部分がある、といったことが見えてくる。
そこから、瓶をたくさん入れられるような冷蔵庫を開発してはどうかとか、邪魔な出っ張りのない冷蔵庫を開発してはどうか、というアイデアが出てくるわけだ。
お客様の問題を解決するだけではなく、自ら問題を発見して解決するという方法を加えることによって、より幅の広い製品開発が可能になるのである。
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